ナチュラルでヘルシーなイメージのあるココナッツオイル。その人気が高まる一方で、「その生産は本当に環境や社会に優しいのだろうか?」と、背景にあるストーリーに関心を持つ方が増えています。特に、パーム油の生産が環境破壊と結びつけて語られることが多い中、ココナッツオイルはどうなのでしょうか。
こんにちは、ウタマスパイスの佐藤です。私たちは、製品に使用する原料の背景にも目を向け、自然と人とのより良い関係を目指したいと考えています。今回は、ココナッツ生産が抱える持続可能性(サステナビリティ)の課題と、私たち消費者ができる「エシカルな選択」について、一緒に考えていきたいと思います。
1. ココナッツ生産と環境への影響:光と影
まず、ココナッツ生産が環境に与える影響について、いくつかの側面から見ていきましょう。
土地利用と森林破壊の実態
ココナッツ栽培が直ちに大規模な森林破壊に結びつくわけではありません。パーム油や大豆生産と比較すると、既存の農地や、多様な作物を組み合わせる「アグロフォレストリー(森林農法)」の中で行われるケースも多く見られます。しかしながら、歴史を振り返ると、特に太平洋の島嶼地域などでは、大規模な単一栽培プランテーションが原生林に取って代わったという事実もあります。また、今後の需要増加によっては、新たなプランテーション開発が森林減少を引き起こす懸念も否定できません。したがって、「ココナッツ生産は森林破壊とは無関係」と単純に考えることはできない、複雑な側面を持っています。
生物多様性への影響
一つの作物だけを広範囲に栽培する単一栽培(モノカルチャー)は、一般的に生物多様性を低下させる傾向があります。原生林や多様な植物が共存するアグロフォレストリーシステムと比較すると、生息できる生き物の種類は限定されてしまいます。ある研究では、特定の生物多様性の高い島嶼地域においては、生産量あたりの影響を見ると、ココナッツオイル生産がパーム油生産よりも多くの絶滅危惧種に影響を与える可能性も指摘されています(ただし、世界全体で見ればパーム油による生息地破壊の総面積ははるかに大きいとされています)。重要なのは、どのような環境で、どのような栽培方法が採用されているかという点です。
水使用量とカーボンフットプリント
ココヤシは熱帯の降雨量の多い地域で育つため、灌漑に大量の水を必要とする他の作物と比較すると、水の使用効率は比較的良いとされています。また、ココヤシの木自体は成長過程で二酸化炭素を吸収します。しかし、収穫後の加工(特に伝統的なコプラ乾燥での燃料使用)や製品の輸送においては、二酸化炭素が排出されます。そのため、殻や繊維を燃料やバイオ炭として有効活用する「ゼロウェイスト」のような取り組みが、カーボンフットプリント削減の鍵となります。
環境への影響についての結論
ココナッツ生産の環境への影響は、栽培方法や地域によって大きく異なります。「ココナッツ生産=環境破壊」と断定することはできませんが、単一栽培にはリスクも伴います。一方で、アグロフォレストリーのような持続可能な方法で管理されれば、環境への負荷を低減できる可能性を秘めていると言えるでしょう。
2. 生産者を支える仕組み:社会的な課題とフェアトレード
環境面だけでなく、ココナッツ生産に関わる人々の暮らし、つまり社会的な側面にも目を向ける必要があります。
小規模農家が直面する課題
世界のココナッツ生産の大部分は、実は小規模な農家によって支えられています。しかし、その多くが貧困という厳しい現実に直面しています。主な収入源である乾燥ココナッツ(コプラ)の市場価格は不安定で低く、仲買人に買い叩かれることも少なくありません。加えて、多くの農園ではココヤシの木が老齢化し、生産性が低下しているにもかかわらず、新しい苗木への植え替えが進まない、他の安価な植物油との競争が激しい、といった問題も抱えています。
フェアトレード(公正な貿易)という仕組み
こうした課題に取り組むための一つの仕組みが「フェアトレード(公正な貿易)」です。これは、開発途上国の生産者に対して、より公正な価格を保証し、長期的な安定した取引を行うことを目指すものです。単に適正な価格を支払うだけでなく、「プレミアム」と呼ばれる割増金が生産者組合に支払われ、これが地域の学校建設やインフラ整備、あるいは品質向上や持続可能な農業への転換のための資金として活用されます。
フェアトレード認証の役割
私たち消費者がフェアトレード製品を選ぶ際の目印となるのが「フェアトレード認証ラベル」です。Fairtrade International (FLO)やFair Trade USAなどが代表的な認証機関であり、これらのラベルは、児童労働や強制労働の禁止、環境基準の遵守などを含む、定められた国際基準を満たしていることを示しています。インドネシアにおいても、フェアトレードの仕組みを通じて生産者協同組合が支援され、農家の収入向上や女性の地位向上、品質改善のためのトレーニングなどに繋がったという報告があります。
3. 持続可能なココナッツ生産への道筋
環境と社会、両方の側面からココナッツ生産を持続可能なものにしていくためには、どのような取り組みが考えられるでしょうか。
アグロフォレストリー(森林農法)と混作の推進
ココヤシだけでなく、他の樹木や作物(カカオ、バナナ、スパイス類など)を組み合わせて栽培するアグロフォレストリーや混作は、多くのメリットをもたらします。生物多様性を保全し、土壌を豊かにし、病害虫のリスクを分散させることができます。さらに、農家にとっては収入源が多様化し、単一作物の価格変動リスクを軽減することにも繋がります。
リジェネラティブ農業(環境再生型農業)の導入
これは、単に環境負荷を減らすだけでなく、土壌の健康を積極的に回復・向上させることを目指す考え方です。健康な土壌は、炭素を貯蔵する能力も高いため、気候変動対策にも貢献します。
ゼロウェイスト・アプローチの実践
オイルを抽出した後の殻、繊維、水分などを廃棄せず、燃料、建材、肥料、有機資材、工芸品などに有効活用する取り組みです。資源を無駄なく使い切ることで、環境負荷を低減し、新たな価値を生み出すことができます。
品種改良と植え替え支援
生産性が高く、病害虫や気候変動に強い、地域の環境に適した品種の開発と、老齢化した木の植え替えを支援することも重要です。これにより、農家の収入安定と持続的な生産が可能になります。
協同組合の強化による農家支援
小規模農家が組織化し、協同組合として活動することで、共同での生産管理、品質向上、加工、販売が可能になります。これにより、市場での交渉力を高め、より公正な条件で取引できるようになることが期待されます。
4. 私たち消費者にできること:エシカルな選択のために
より良いココナッツ生産を応援するために、私たち消費者にもできることがあります。それは日々の「選択」です。
認証マークを確認する習慣を
製品を選ぶ際に、「フェアトレード認証」や「有機(オーガニック)認証」などのラベルを確認することは、分かりやすい第一歩です。これらの認証は、環境や生産者の人権に配慮している可能性が高いことを示唆しています。
背景にある情報を調べる意識を持つ
商品のラベルだけでなく、ブランドのウェブサイトなどを通じて、どのような考え方で原料を調達しているか、生産地の環境や社会にどのような配慮を行っているか、といった情報を積極的に調べてみましょう。透明性の高い情報公開は、信頼できるブランドの一つの指標となります。
持続可能な農法への支援
「アグロフォレストリー認証」など、特定の持続可能な栽培方法を示唆する認証や表示が付いた製品を選ぶことも、先進的な取り組みを応援することに繋がります。
価格の背景を想像してみる
製品の価格には理由があります。極端に安い製品の裏には、生産者への不当な低価格や、環境への配慮不足が隠れている可能性もゼロではありません。「安さ」だけを基準にせず、その価値が公正なものであるかを少し立ち止まって考えてみることも大切です。
5. ウタマスパイスの想い:自然と人への敬意
私たちウタマスパイスは、バリ島で生まれ育ったブランドとして、島の豊かな自然、受け継がれてきた文化、そして地域の人々との調和を大切にしたいと考えています。バリには「トリ・ヒタ・カラナ」という、神・人・自然の三つの調和を重んじる美しい哲学がありますが、私たちの製品づくりも、この精神に基づきたいと願っています。
そのため、使用する原料については、できる限り自然に近い、持続可能な方法で栽培・採取されたものであることを重視しています。フェアトレードやオーガニックといった考え方にも共感し、可能な範囲でそうした原料を選択するよう努めています(※具体的な取り組みについては、別途ご確認ください)。
私たちが心を込めて作った製品を選ぶことが、遠く離れた生産地の環境や人々の暮らしを、少しでもより良くすることに繋がるかもしれない。そう信じて、これからも自然と人への敬意を忘れずに、ものづくりを続けていきたいと考えています。
- 私たちのブランドについて: [ウタマスパイスについてのリンク]
未来への責任ある選択を
ココナッツオイルは、私たちの暮らしに豊かさをもたらしてくれる素晴らしい自然の恵みです。しかし、その生産の裏側には、環境や社会に関する様々な課題が存在することも事実です。
幸いなことに、フェアトレード認証やアグロフォレストリー、環境再生型農業など、より持続可能な未来を目指すための前向きな取り組みも広がっています。
私たち一人ひとりが、製品の背景にあるストーリーに関心を持ち、どのような製品を選ぶかという「選択」を通じて、環境と生産者を支える力になることができます。ぜひ、今日からのお買い物の際に、少しだけ「エシカルな視点」を加えてみてはいかがでしょうか。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ウタマスパイス 佐藤